第4.5話「大切なもの」


時はミフユのコンサート開始前、魔獣討伐から帰還したミフユたちがハルカに軽く説教をされた後の話である。

「もー…ハルカのやつ小言がうるさーい」

ミフユはぶつぶつと文句を言っているがそれに対して使い魔スティンガーも同調する。

「あの赤いの今度みてやがれ…俺様の睡眠すら邪魔しやがって…」

「それはスーちゃんがお説教中に寝てたのが悪いでしょ」

「だって話長いんだもん」

お説教時間はほんの5分程度だったが、そもそもお説教というよりは「色々調べなきゃいけないこっちの身にもなれ!!」というような愚痴のようなものだった。

なので別段長くもなかったのだがこの二人にとっては苦痛の時間であったようだ。

一応一緒に話をされていたルンはその時は「ごめんなさい!!」と謝っていたが今は平常運転である。おそらくもう忘れているのであろう。

「とりあえず一旦お風呂入って夜の準備しないと」

そう言いながらルンとロゼッタをつれて浴場へと足を運ぼうとしたところミフユの戴冠式に出席するためにレグルス王国に来ていた虎の獣人リヒトに呼び止められる。

「ミフユ、ここにいたか」

「あらリヒト、どうしたの??私に会いたくなった?デートのお誘いかしら」

「馬鹿言え、お前の事は嫌いじゃないが異性として魅力を感じた事など一度もない。俺たちよりも獣じみた奴だからな」

「レディに対して中々言うわねリヒト」

リヒトの言葉にスティンガーは「確かに!!」とゲラゲラ笑っていたが直後にロゼッタに怒られる。

そんなやり取りを横目に更にリヒトは続ける。

「それに俺はお前の趣味は知っている。そんな奴にアプローチしても無駄だろう」

「それもそうね」

その言葉にミフユはふふっと笑いながら答える。

「しかしお前も一国主になったんだ。どうするんだ?跡継ぎの事は」

「うーん・・・さぁね??こればっかりはね…まぁほらうちにはまだ一人いるし」

ミフユのその言葉にリヒトはルンの方を見る。

「妹頼みか…まぁ俺もこういう事はよくわからないのでなんとも言えんが…なるようにしかならんか」

「そうそう、まぁ最悪私が数百年生きるわよ!!」

「…お前が言うと冗談に聞こえないのはなんでだろうな…」

「そんな事よりどうしたの??何か用があったんじゃないの??」

「あぁ、そうだった。実はな、我が主からお前への贈り物を預かっていたのでそれを渡しにきた」

「贈り物?」

ミフユはそう言うとリヒトが何やら布をかぶせた籠のようなものを片手で持っているのを確認する。

「あぁ、これだ」

リヒトはそう言うと布をその籠から剥がした。するとの籠の中にはまだ生まれて間もない小さな動物が入っていた。

「え!!何この子!!…ライオン??」

その場にいた一同その籠の中に入っていたライオンの赤ん坊を見て各々「可愛い」やら「ちっさ」やら声をあげている。

そんな面々を見たせいでその子ライオンは少し怯えていた。

「見てのとおりうちの島に生息するライオンの子供だが、この種族は少し珍しくてな。大人になるとたてがみがミフユ、お前の髪のような金色のたてがみになるんだ」

「へぇ!!そうなんだ!!」

「あぁ、ただこの子は他のライオンたちと比べて少し臆病でな…神樹島で産まれたライオンは代々わが主の側で共に神樹を守護する役目につくのだが、その大切な役目を担うライオンたちは生まれた時から基本的には性格がすでに猛々しいんだ」

「この子は違ったんだ」

「あぁ、訓練すれば…という話ではあるのだが、この子と同世代のライオンたちも例年より多く生まれてな…どの子も勝気な性格ばかりでな」

「あぁ~…浮いちゃってるのね…」

「そうなんだ、役割を担えるライオンの数も限られているのだが…いつもはここまで数多く生まれないのでな、基本的に育つライオン全てが役職につけるのだが…」

「今回は役職をもらえない子が出てきて、その筆頭がこの子って事ね・・・」

「あぁ、おそらく他のライオンたちも成長するにつれ、一番気弱なこの子を落とそうと攻撃的になるかもしれん」

「だから私のところに連れてきた??」

「そうだ、我が主はミフユならこの子を大切に可愛がってくれる、そしてミフユの側にいれば自然と強く猛々しく成長するだろうとな」

「そっか!!そういう事なら遠慮なくこの子を貰うわね!!」

ミフユは籠の中から子ライオンを両手で取り出しその顔をじっと見る。

最初は少し怯えていた子ライオンもミフユに何かを感じたのか目を細め顔を摺り寄せてきた。

それを見たリヒトは言う。

「すごいな、こんなに早く懐くなんて…この子はかなり人見知りなんだ」

「そうなのね。この子は…雄?」

「あぁ、雄だ。ちなみにこの種族は普通のライオンと比べても数倍知能が高いんだ。なのでむやみに誰かを襲ったり勝手な行動はしない。もちろんちゃんと躾ければ、という話だが、城の中で放し飼いにしていても問題はないとは思うが、心配なら檻の中に入れてやってくれ」

「うん。この子なら大丈夫よ」

早くもミフユに懐き、じゃれついているのを見たルンやロゼッタも撫でさせてとミフユを囲む。そして子ライオンを撫でながらルンが尋ねる。

「おねーさま、お名前はどうするのー??」

「うん、実はもう決まってるの」

「そうなんだ!!なになにー??」

「『レオ』よ!!」

その名前を聞きリヒトとスティンガーは「そのまんまだな」とつっこむ。確かにライオンにレオとはそのままである。

「もう決めたの!!この子はレオ!!私の大切な新しい家族!!」

ミフユはそう言うとレオのおでこに自分の額をくっつけながら首を左右に振りこすりつける。

「よろしくね!!レオ!!」

ミフユのその言葉にレオは理解したのか、嬉しそうに「ミャー」と鳴き目を細める。

その姿にリヒトは安心し、妹のルンは自分の家族が増えた事に喜び、ロゼッタは何かを想ったのか涙を浮かべた。

スティンガーは自分に新しい舎弟ができそうだとぶつぶつ言っていた。

戴冠式を終え、新たに国の主となったミフユには護るべき大切な存在がたくさんいる。

そしてその中でも更に大切な存在というものもいくつもある。ミフユにとってその大切なものがまたひとつ増えたのであった。

 

 

この小さな命はこの世界の中でずっとミフユと共に生きていくであろう。

大切なもの。ここに来てくれてありがとう、レオ。